AI時代こそ、コミュニケーション力が武器になる~AIとの対話が教えてくれた、伝える力の本質~
目次
はじめに
ChatGPTやClaude、GitHub Copilotなど、今やAIツールはエンジニアの日常に欠かせない存在になっています。
プロンプトの書き方ひとつで、結果が大きく変わることを実感している方も多いのではないでしょうか。だからこそ、意図した結果を得るために、私自身も伝え方を試行錯誤し続けています。
その試行錯誤の中で、苦い経験もしました。テストデータの作成をAIに依頼したときのことです。「商品マスタをもとに、ユーザーレビューのテストデータを作って」とAIに指示し、そのまま生成を走らせた結果、大量のトークンを消費したにもかかわらず、言い回しもニュアンスも似たり寄ったりの機械的なデータしか出てきませんでした。
バリエーションや自然さについて、事前に「こういうものが欲しい」と伝えていなかったのが原因です。この失敗を機に、「どう伝えるか」を意識的に突き詰めるようになりました。
伝え方を突き詰めていくうちに、AIへの伝え方を磨くことは、そのまま人間相手のコミュニケーション力を磨くことでもあると気づきました。本記事では、その理由と具体的なポイントをお伝えします。
AIとの対話で気づいた3つのポイント
AIとのやりとりを重ねる中で特に効果を実感しているのが、次の3つです。
① 意図を正確に言語化する
冒頭のテストデータの失敗は、まさに意図を正確に伝えていなかったことが原因でした。「バリエーション豊かに」「口語的に」——そう伝えていれば結果は変わっていたはずです。
意図を言葉にして伝えるだけで、AIの回答は別物になります。
❌ 「商品マスタをもとにユーザーレビューのテストデータを作って」
✅ 「商品マスタをもとにユーザーレビューのテストデータを作ってください。
口語的な表現で、満足・不満・普通など感情のバリエーションを持たせてください」
② 前提知識・背景情報を先に共有する
加えて、背景情報の共有も抜けていました。商品マスタは渡しましたが、「どんなシーンで使うテストデータか」「どんな語調にしたいか」は一切伝えていませんでした。
AIはこちらが伝えない限り、状況を把握できません。背景情報が足りなければ、AIはこちらの意図を推測するしかなく、どれも似たような無難な出力しか返せません。
❌ 「口語的な表現で、感情のバリエーションのあるユーザーレビューのテストデータを作って」
✅ 「口語的な表現で、感情のバリエーションのあるユーザーレビューのテストデータを作ってください。
商品検索機能のテスト用で、対象は家電カテゴリの商品です。
実際の購入者が書くような自然さを意識してください」
③ 確認しながら進める
また、完成イメージを事前に確認しなかったことも問題でした。そのまま一気に生成させた結果、大量のトークンを無駄にしてしまいました。
結果を見てから「これじゃない」となるのは、AIとの対話でやりがちな失敗です。タスクを小さく区切り、出力を確認しながら進めることで、完成後の大きなズレを防ぎます。
❌ 「口語的な表現で感情のバリエーションを持たせた、家電カテゴリのユーザーレビューのテストデータを100件作って」
✅ 「同じ条件で、まず10件だけ作ってください。
内容を確認してから残りを依頼します」
人間同士のコミュニケーションとの共通点
AIとの対話で意識してきたこの3つを見直してみると、仕事上の人間同士のコミュニケーションでもまったく同じことが言えます。AIへの伝え方を試行錯誤している間、実は人への伝え方も一緒に鍛えていたのかもしれません。
① 意図を正確に言語化する
「なんかいい感じにまとめておいて」と依頼して、思っていたものと全然違うものが上がってきた——そんな経験が一度はあるのではないでしょうか。
依頼した側の言語化が甘ければ、受け取る側は推測で動くしかありません。意図を言葉にして伝えるだけで、相手の動き方は別物になります。
❌ 「なんかいい感じにまとめておいて」
✅ 「先週の打ち合わせの内容を、箇条書きで3点にまとめてください。
次回の定例で共有するため、決定事項と未決事項がわかるようにしてほしいです」
② 前提知識・背景情報を先に共有する
自分の中では当然の前提でも、相手には伝わっていないことがあります。
特に気をつけたいのが、気心の知れたメンバーへの相談です。慣れが出てくると、「この人なら背景を言わなくてもわかるはず」という思い込みが積み重なっていきます。
私自身も、背景情報を省いたまま急に本題に入ってしまうことがあります。相手から背景について質問されて初めて、「あ、また省いてしまっていた」と気づく——そんな経験を何度かしてきました。
親しくなるほど、チームが成熟するほど、背景の共有は意識的にしないと抜け落ちます。これはエンジニアとビジネスサイドのやり取りや、チーム間の連携でも同じことが言えます。
だからこそ、相手の知識レベルや状況に合わせて、背景情報を先に共有することが大切です。これだけで認識のズレは大幅に減ります。
❌ 「新機能の設計、これでいける?」
✅ 「来月リリースの通知機能の設計についてです。
プッシュ通知とメール通知の両対応を求められていて、
既存の通知基盤に乗せる方向で考えているのですが、問題なさそうか確認したいです」
③ 確認しながら進める
タスクを丸投げしてしまうと、最初は認識が合っていても、作業が進むにつれて少しずつずれていくことがあります。
「丸投げ→完成→やり直し」のループは、余計な手戻りを生み、モチベーションにも影響します。途中確認は「信頼していない」のではなく、「ズレを早めに潰す」ための習慣です。
❌ 「この不具合の調査、お願い」
✅ 「先週から出ているエラーの原因を調べてほしいです。
まずエラーログを確認する方向で、
次回定例での共有をゴールにしてもらえますか?」
AIが進化するほど、問われるのは「伝える力」
ここまでAIと人間の両方への伝え方を見てきましたが、AIの性能は今もなお目覚ましいスピードで向上しています。
AIが賢くなり、曖昧な指示もある程度くみ取ってくれるようになっても、使いこなせるかどうかは「伝える力」にかかっています。
同様に、人間同士のコミュニケーションにおいても「伝える力」は欠かせません。
AIが実装したコードや提案した設計をステークホルダーに伝えるとき——問われるのは、プロンプトを書く力のさらに先にあるものです。目的・背景・判断の理由を、自らの言葉で語れるかどうかです。
これからAIが実装を担う場面は確実に増えていきます。そのとき「AIに作ってもらいました」だけで終わらせてしまうと、何のために、どういう判断でその仕様にしたのかが周囲に伝わりません。
AIが書いたコードの背景と判断の理由を説明できるか——そこが問われる場面がきっと来ます。
だからこそ、AIを使いこなすエンジニアとは、AIに的確に指示できる人であると同時に、その結果を人に説明できる人のことだと思っています。
おわりに
冒頭のテストデータの失敗は、振り返ってみれば「伝わらなかった」のではなく、「伝えていなかった」のだと今は思います。
意図も、背景も、途中確認も——何ひとつ伝えていませんでした。
AIも、人も、伝えた分だけ応えてくれます。
AIが当たり前になった今こそ、あえて問いたいと思います。あなたはAIに伝えるのと同じ丁寧さで、チームメンバーに伝えていますか?
その答えは、AIへの指示の中にあります。次にAIに指示を出すとき、少しだけ丁寧に書いてみてください。その一言がチームへの伝え方も、きっと変えていきます。
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