PMOって何してるの?現場経験からわかった本当の役割

目次
はじめに
こんにちは。デジタルエンジニアリング部の斎藤です。
これまではSEとして主に開発業務に携わってきましたが、今回初めてPMOにアサインされ、約1年間その業務に従事することになりました。
当初は「PMOって何をするの?」という疑問からのスタートで、まずは調べてみるところから始まりました。
日本PMO協会には、PMOについて以下のように説明されています。
PMOとは"Project Management Office"の略です。日本語では「プロジェクトマネジメントオフィス」、「プログラムマネジメントオフィス」と一般的に呼ばれます。
PMOは、組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う部門や構造システムを言います。
参考:日本PMO協会 PMOとは
ただ、正直なところ内容はやや抽象的で、結局、現場で何をしているのか?という点がなかなか掴めませんでした。
そこで今回は、PMO経験が浅い私自身が、実際に担当した業務を工程ごとに振り返りながら具体的に整理してみました。
これからPMOに挑戦される方や、役割をより詳しく知りたい方の一助となれば幸いです。
PMOの目的
プロジェクトが複雑化・多様化する中、PMOはシステム全体設計の検討を含め、プロジェクトの全体像を俯瞰しながら、進捗やリスクの見える化、管理手法の標準化、ナレッジの蓄積を通じて成功確率を高める役割を担います。
経営判断のスピードやプロジェクト品質の安定、リソースの最適化などを支える存在です。
PMOが存在しない場合、管理方法のばらつきや情報の分断により、課題の発見や対応が遅れ、納期遅延やコスト超過といったリスクが高まります。
PMOは、プロジェクトを計画的かつ安定的に進めるために重要な役割を果たします。
PMOの仕事の流れ
プロジェクトの基本的な流れに沿いながら、今回は以下の4つのフェーズに分けて、私がPMOとして携わった業務を整理していきます。
- 検討フェーズ:サービス内容や要件、システム構成などの検討。
- 準備フェーズ:マスタスケジュールの作成、体制の確認、プロジェクト管理ツールの選定など。
- 実行フェーズ:定例会議の実施、進捗・課題管理、リリーススケジュールの調整など。
- 終結フェーズ:検収対応、支払処理、プロジェクトの振り返りなど。
具体的な仕事内容
【検討フェーズ】
1.サービス仕様書の作成
- 内容・目的
- サービスで実現したい内容を可視化し、関係者間で共有することで認識齟齬をなくす。
- サービスの目的、機能、画面イメージ、サービスインまでのスケジュールなどをできる限り詳細に記載する。
- PMOの仕事
事業の責任者が作成したサービス仕様書の内容を確認し、仕様が曖昧な箇所や未決事項がある場合には、それらを洗い出して明確化されるまで継続的にフォローすることが求められます。
また、サービス仕様書はプロジェクトの進行に伴って随時改訂されるため、仕様変更管理表を作成し、各種打ち合わせやQAで決定された内容を適切に記録・管理することが重要です。
記載漏れがあった場合は、速やかに事業の責任者に確認・共有しましょう。
さらに、仕様の追加や修正があった場合には、必ず最新の資料に反映し、関係者にきちんと共有することも大切です。
2.要件一覧の作成
- 内容・目的
- サービス仕様書に記載された機能要件、非機能要件を漏れなく記載することで、事業の責任者の要求を一覧化し、開発側の考慮漏れや認識不足が起きないようにする。
- PMOの仕事
要件一覧の作成と、その内容に対する関係者間での合意形成を行います。
サービス仕様書から機能要件および非機能要件を抽出し、各機能に関連するシステムを整理・可視化します。
その後、関係者によるレビューを通じて内容を精緻化していきます。
完成した要件一覧は関係者に共有し、変更が発生した際には速やかに修正の上で改めて周知を行いましょう。
3.システム構成案、構成図の作成
- 内容・目的
- サービス提供に必要なシステムを洗い出し、相関関係が把握できるようにする。
- サービス要件を満たすにあたり開発が必要なシステムに漏れがないか、システム間の連携概要を確認できるようにする。
- 効率的、かつコストや運用負荷を抑えたシステムデザインを目指す。
- PMOの仕事
システム構成案の検討を行い、それに基づいてシステム構成図を作成します。
サービス視点から見た妥当性に加え、コスト、応答タイミング、システムスペック、システムの目的、対応スケジュールなどの要素を総合的に考慮し、関係者によるシステム構成の決定を支援します。
これらは、PMOの業務の中でも特に重要な役割の一つであり、プロジェクト初期の設計判断に大きく関わる工程だと思います。
4.シーケンス図の作成
- 内容・目的
- 各機能に対してシステムの処理の流れをアクターと時間軸に沿って記載する。
- システム間の相関、役割や機能配置について関係者間での認識合わせを行い合意形成を図る。
- PMOの仕事
サービス仕様書や画面仕様書などを基に、システム間のやり取りを整理したシーケンス図を作成します。
図には、システム間で授受される情報、各システムが備えるべき機能、保持すべきデータなどを明記します。
作成後は各システム担当者とシーケンス内容の認識をすり合わせ、必要に応じて修正を行います。
最終的に、確定したシーケンス図は正式な設計資料として関係者へ展開します。
5.RFPの作成、概算見積の取得
- 内容・目的
- 開発ベンダに対して開発してほしいシステムの機能および性能を伝え、提案および費用の算出を依頼する。
- 各外注コストの見積を集約し、プロジェクト全体のコストを漏れなく把握するためのステップとなる。
- PMOの仕事
RFP(提案依頼書)の作成が必要な場合には、その準備に要する期間をあらかじめスケジュールに反映し、調整を行います。
実際に提出されたRFPとサービス仕様書を照合し、内容に齟齬や不整合がないかを確認します。
万が一要件漏れがあると、追加開発が発生し、リリース延期に繋がる恐れもあるため、不明点や曖昧な点は事前に明確化しておきましょう。
6.見積集約
- 内容・目的
- プロジェクトを実施するにあたり必要となるコストを整理し、予算との調整を図る。
- 必要な場合は機能の絞り込みや、予算の増加検討などの調整を事業の責任者に依頼する。
- PMOの仕事
見積の提示依頼および集約を行い、総コストを算出します。
その上で、算出結果と予算額にギャップがある場合は、関係者と連携しながら調整を推進します。
ギャップが生じた際には、複数の対応案を検討・提示し、それぞれのメリット・デメリットを整理した上で最終的な方針を事業の責任者にご判断いただきます。
判断材料は可能な限り具体性を持たせるため、工数・費用・スケジュール影響などを数値で整理し、定量的に判断できる材料の収集を心掛けましょう。
【準備フェーズ】
1.体制図の作成
- 内容・目的
- プロジェクトのステークホルダーを可視化し、プロジェクト内の報告・相談ルートを明確にし、実行フェーズにおけるコミュニケーションを円滑に行えるような準備を行う。
- 体制図資料を作成することで、キックオフ時に関係するメンバの認知を図る。
- PMOの仕事
関係システムの担当者にヒアリングを行い、体制図資料に落とし込みます。
各担当者の役割を明確にしておくことが、スムーズな連携のために重要です。
2.マスタスケジュールの作成
- 内容・目的
- プロジェクト開始から終了までの全体および節目のスケジュールを記載し、関係者間の認識齟齬をなくす。
- プロジェクト全体WBSのベース資料としてプロジェクト終結までのスケジュール管理を行えるようにする。
- PMOの仕事
リリース時期やプロジェクトに必要な工程・期間をドキュメントに可視化します。
各システムで開発工程の呼称や定義に違いがあるため、言葉の定義を明確にした上でフォーマットを提示すると集約しやすくなります。
また、前提条件や調整事項があれば、あわせて記載しておくことが望ましいと思います。
3.プロジェクト管理ツールの準備、ガイドラインの作成
- 内容・目的
- プロジェクト運営に必要なツールや環境の準備を行い、スムーズかつガバナンスの効いたプロジェクト運営を実現するための基盤を整える。
- PMOの仕事
進捗管理や課題管理の方法、ならびにコミュニケーション手段について、プロジェクト管理ツールの準備およびプロジェクトルールの規定を行います。
認識の齟齬を防ぐため、関係者全員が使いやすいツールを選定し、連絡ルールや合意形成の方法などを詳細に詰めておくことが重要だと思います。
【実行フェーズ】
1.キックオフミーティング
- 内容・目的
- 実行フェーズにおけるシステム開発定例を運営していくにあたり、関係者全員でプロジェクトの目標や運営方針を共有し、意思統一を図るための会議体となる。
- PMOの仕事
キックオフミーティングの準備および進行を担当します。
キックオフ資料には、プロジェクトの目的、プロダクトの提供価値、サービス概要、システム概要、体制と役割、スケジュール、現時点での課題やリスク事項を記載し、関係者へ周知します。
キックオフ後は基本的に週次でシステム開発定例を実施し、その準備および進行も担当します。
2.開発進捗・課題管理
- 内容・目的
- 実行フェーズでのプロジェクト全体の進捗を管理し、早期に課題解決・リスク回避をし計画通りにプロジェクトを完遂させる。
- 進捗において課題が生じた場合は、課題管理に記載の対応を行う。
- PMOの仕事
各システムの進捗やプロジェクト管理ツールをモニタリングし、早期に課題を検知します。
リスク回避や課題解決を推進し、計画通りにプロジェクトを完遂できるよう努めます。
会議のファシリテーションおよび議事メモの作成を行い、確定事項や懸念点、不明点は随時ピックアップし必要に応じて関係者間の打ち合わせを設定しましょう。
3.予算・執行管理
- 内容・目的
- プロジェクトの全体コストや追加発注時のコスト、残予算を把握し、予算を超過しないようにコントロールする。
- やむを得ず当初予算を超過する場合には、事業の責任者の部門に予算調整などの対応を依頼する。
- PMOの仕事
予算管理表の管理を担当します。
管理表にはシステム名、見積金額、発注金額、発注日、検収月、支払月、負担部門などを記載します。
発注時には記入依頼や内容確認、残金の確認を事業の責任者と連携しながら進めていきましょう。
4.要件定義、基本設計
- 内容・目的
- 実装すべき機能や満たすべき性能などを明確にする。
- 対象物の機能や構成などの大枠や基本的な仕様を決める。
- PMOの仕事
進捗確認および課題管理を実施します。要件定義や基本設計の段階で発生した課題については、優先順位をつけた上で速やかに解決を図ります。
仕様が未確定であることによって解決が困難な課題については、QA表を作成して整理し、関係者と合意の上で仕様を確定させます。
確定した仕様は、システム仕様書に反映するよう徹底しましょう。
5.IF確認
- 内容・目的
- 施策内で新規・改修となるシステム間のIFを明確にし、そのIFの設計、疎通確認、対向試験が可能になるスケジュールを関係者間で認識齟齬無く把握できるような調整を行う。
- 連携先システムとの接続試験の進捗を確認し、全体スケジュールに影響が生じないようにスケジュール管理を行う。
- PMOの仕事
関連システムに対して、新規および改修となるIFの整理・抽出を依頼し、基本設計の提出期限および対向試験の希望日を記載いただいた上で連携先システムとの調整を進めます。
システム間での連携・調整が必要となるため、調整の推進および仲介もあわせて行います。
6.開発・試験
- 内容・目的
- 開発・試験を実施するにあたり、試験範囲や手順、スケジュールなどを明確にしておく。
- PMOの仕事
進捗確認および課題管理を行います。プロジェクト管理ツールを常時モニタリングし、サービスや連携先システムに影響が及ぶ可能性のある課題については、速やかにキャッチアップします。
システム仕様に変更が生じる場合は、必ず事業の責任者の合意を得た上で修正を行うよう周知し、スケジュールに影響が出る可能性がある場合には、連携先システム側へ速やかに相談を行うよう対応を促しましょう。
7.リリーススケジュール調整
- 内容・目的
- システムリリースにおける関連システムのスケジュールを集約し、順序や依存関係などを考慮したタイムスケジュールを調整する。
- PMOの仕事
リリーススケジュールのヒアリングを実施し、システム間のスケジュール調整を行った上で全体スケジュールを可視化し、関係者への周知を徹底します。
また、作業スケジュールに加えて、リリース実施の前提条件、切り戻しの判断ポイント、コンティンジェンシープランなどについても事前に検討・整理を行います。
8.システム、サービスリリース
- 内容・目的
- 商用でのお客様が利用できる状態に必要なシステムの公開を行う。
- PMOの仕事
計画されたスケジュールに沿って作業を円滑に実施できるよう推進します。
リリース時に発生した課題については課題管理表に取りまとめ、恒久対応策まで整理します。
その後、振り返りを目的とした最終のシステム開発定例を実施し、残課題の担当者を明確化した上でプロジェクト体制の解除を行います。
【終結フェーズ】
1.検収、支払
- 内容・目的
- プロジェクトの完了に伴う、経理処理のための手続きを行う。
- PMOの仕事
検収、支払いなどの各種手続きが適切に完了しているかを確認し、必要に応じて関係部署と連携の上で対応を行います。
2.終結
- 内容・目的
- プロジェクトの評価、課題の整理などを行います。
- PMOの仕事
プロジェクトの最終評価および振り返りを実施します。
あわせて、課題の引継ぎや、関連文書・成果物の最新化も行い、今後の活用や次フェーズへのスムーズな移行を図れるようにしましょう。
PMOに必要なスキル
PMOとしてプロジェクトに関わるなかで、実際に必要だなと感じたスキルについて、自分なりに整理してみました。
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プロジェクトマネジメントスキル
進捗管理や課題の優先度付け、リリースに向けた各フェーズの調整など、プロジェクト全体の動きを俯瞰しながらも、細部に目を向けて対応していく力が求められました。
スケジュールや品質、コストのバランスを意識しながら進めることが、PMOの重要な役割だと思います。 -
コミュニケーション/ファシリテーション力
各システムや関係部署との間に立ち、認識のズレをすり合わせたり、合意形成を図ったりする場面が多くあります。
単に話を通すだけでなく、関係者が納得して進められるように、情報を整理しながら会話を組み立てていくことが求められました。 -
ドキュメント整備・仕様管理スキル
QA表や課題管理表、システム仕様書など、ドキュメントを正しく整備・更新することは、プロジェクトの信頼性を支える土台になると感じました。
常に「最新版がどれか」「誰が何を担当しているか」が明確になっていることで、スムーズに判断・対応ができる環境が整うと思います。
おわりに
約1年にわたりPMO業務に携わってきて、当初は手探りだった業務も、今では少しずつその全体像や意味が見えてくるようになりました。
特に、自分ひとりでは得られないような視点を、周囲のメンバーから学べたことはとても大きかったです。
PMO専属として豊富な経験を持つ方や、コンサル出身で論理的な進め方に長けた方など、多様なバックグラウンドを持つメンバーと一緒に働けたことは、自分にとって大きな刺激であり、学びの連続でした。
まだまだ道半ばではありますが、プロジェクトを支えるという立場の奥深さと面白さを実感できた1年だったと思います。
この経験を次にどうつなげていくか、自分なりに整理しながら、引き続き学びを深めていきたいです。
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