Entra Connect からクラウド同期への移行

Entra Connect からクラウド同期への移行

 


目次

    はじめに

    クラウドインテグレーション部の峰松です。

    前々回、前回と Entra クラウド同期の構成方法や機能について紹介してきました。

    前々回: Entra クラウド同期とは

    前回: Entra クラウド同期について詳しく見てみる

    本記事では、Microsoft Entra Connect(以下、Entra Connect)からクラウド同期へ移行するための手順について記載します。

    移行概要

    プロビジョニングツールを Entra Connect からクラウド同期へ移行したい場合、Microsoft が公開している以下の手順に従います。

    参考: Microsoft Entra Connect から Microsoft Entra クラウド同期への移行

    また、移行のチュートリアルも公開されています。

    参考: 既存の同期済み AD フォレストを Microsoft Entra クラウド同期に移行する

    なお、ドキュメントの前提条件に記載があるように Entra Connect の構成次第ではクラウド同期へ移行できない場合があります。
    例えば、以下を実行している場合はクラウド同期では非対応(記事執筆時点)であるため移行ができません。

    • デバイスオブジェクトを同期している
    • ソースアンカーに objectGUID, mS-DS-ConsistencyGuid 以外の属性を使用している

    また、プロビジョニングエージェントをホストする Windows Server や移行元 Entra Connect のバージョンにも注意が必要です。

    今回は、OU「cloudsync」を同期対象としている Entra Connect 構成を想定し、この同期構成を Entra Connect からクラウド同期へ移行します。
    まずテスト用の OU を用意して少数のオブジェクトで移行テストを行い、問題が無いことを確認してから本番オブジェクトを移行することが推奨されています。

    移行対象の OU「cloudsync」にはユーザ・グループ・連絡先オブジェクトが存在します。
    また、クラウド同期への移行をテストするため、テスト OU「migration_test」を作成しています。

    202505_EntraConnect_01

    また、ユーザと連絡先を各グループに所属させています。

    グループ 所属ユーザ 所属連絡先
    cs_group001 cs_user001 cs_contact001
    cs_group002 cs_user002 cs_contact002
    cs_group003 cs_user003 cs_contact003
    cs_group004 cs_user004 cs_contact004
    cs_group005 cs_user005 cs_contact005

    移行手順

    手順概要はこちらです。

    1. Entra Connect 構成のバックアップを取得
    2. テスト OU へのオブジェクトの移動
    3. Entra Connect の同期スケジューラを停止
    4. 同期対象オブジェクトを Entra Connect で同期しないためのカスタム同期ルール作成
    5. クラウド同期を構成し同期を実行
    6. Entra Connect の同期スケジューラを再開
    7. 本番用の同期構成へ変更
    8. Entra Connect のアンインストール

    それぞれについて解説していきます。

     

    1. Entra Connect 構成のバックアップを取得

    現在の Entra Connect のバックアップを取得し、移行後にトラブルが発生した場合のロールバックを実施できるようにしておきます。

    Entra Connect(旧称 Azure AD Connect)を起動し、[現在の構成の表示またはエクスポート] に進みます。

    202505_EntraConnect_02

    [エクスポート設定] をクリックし、構成が記載された JSON ファイルを保存します。

    202505_EntraConnect_03

    実際にロールバックが必要になった場合、Entra Connect のカスタムインストール画面で同期設定のインポートを行うことで、Entra Connect の構成を復元することができます。

    202505_EntraConnect_04

     

    2. テスト OU へのオブジェクトの移動

    テスト OU へオブジェクトを移動します。
    今回は各オブジェクトを 2 つずつ移動させテストします。

    202505_EntraConnect_05

    移動後に、Entra Connect の同期を行います。

    Start-ADSyncSyncCycle

     

    3. Entra Connect の同期スケジューラを停止

    カスタム同期ルールを作成するための準備として、Entra Connect の同期スケジューラを停止します。

    Entra Connect を実行しているサーバ(以下、「EC サーバ」と表記)にて PowerShell を管理者権限で起動し、以下コマンドを実行します。

    # 実行中の同期を停止
    Stop-ADSyncSyncCycle

    # 同期スケジューラを停止
    Set-ADSyncScheduler -SyncCycleEnabled $false

    これで、Entra Connect の同期スケジューラは無効になりました。

     

    4. 対象オブジェクトを Entra Connect で同期しないためのカスタム同期ルール作成

    対象オブジェクトの同期を Entra Connect からクラウド同期に変更するために、Entra Connect 側でカスタム同期ルールを作成します。
    このルール作成は Entra Connect インストール時に同梱される「Synchronization Rules Editor」というツールで行い、インバウンドルールとアウトバウンドルールをそれぞれ作成します。

     

    インバウンドルール

    インバウンドルールでは、同期対象 OU やセキュリティグループ内のオブジェクトに対して「同期しない」というフラグ(cloudNoFlow = True)を付けます。

    EC サーバにて、Synchronization Rules Editor を管理者権限で起動します。

    202505_EntraConnect_06

    Direction が Inbound になっていることを確認し、[Add new rule] をクリックします。

    202505_EntraConnect_07

    Description セクションにて、以下内容を設定します。

    項目
    Name <任意>
    Description <任意>
    Connected System <AD コネクタ>
    Connected System Object Type user
    Metaverse Object Type person
    Link Type Join
    Precedence <任意>(既存ルールと重複しないこと)
    Tag -

    202505_EntraConnect_08

    Scoping filter セクションにて [Add group] > [Add clause] をクリックし、以下内容を設定します。

    Attribute Operator Value
    dn ENDSWITH テスト OU の dn

    202505_EntraConnect_09

    Join rules セクションでは何も設定しません。

    202505_EntraConnect_10

    Transformations セクションにて [Add transformation] をクリックし、以下内容を設定します。

    FlowType target Attribute Source
    Constant cloudNoFlow True

    202505_EntraConnect_11

    [Add] をクリックし、ルールが作成されていることを確認します。

    202505_EntraConnect_12

    これで、ユーザオブジェクトに関するルールが作成できました。
    グループ・連絡先オブジェクトに関しても同様のルールを作成します。
    Description セクションのうち、以下の設定内容が変わります。

    項目
    Connected System Object Type group(グループ)
    contact(連絡先)
    Metaverse Object Type group(グループ)
    person(連絡先)

    したがって、1つの AD コネクタあたり計3つのルールを作成することになります。

    202505_EntraConnect_13

     
    アウトバウンドルール

    アウトバウンドルールでは、「同期しない」というフラグ(cloudNoFlow = True)がついたオブジェクトの情報を Entra テナントへエクスポートしないように設定します。

    ※ Entra ID オブジェクト自体を削除するわけではありません。あくまで「対象オブジェクトに対しては何も行わない」という設定です。

    Synchronization Rules Editor にて、Direction を Outbound に変更し、[Add new rule] をクリックします。

    202505_EntraConnect_14

    Description セクションにて、以下内容を設定します。

    項目
    Name <任意>
    Description <任意>
    Connected System <Entra コネクタ>
    Connected System Object Type user
    Metaverse Object Type person
    Link Type JoinNoFlow
    Precedence <任意>(既存ルールと重複しないこと)
    Tag -

    202505_EntraConnect_15

    Scoping filter セクションにて [Add group] > [Add clause] をクリックし、以下内容を設定します。

    Attribute Operator Value
    cloudNoFlow EQUAL True

    202505_EntraConnect_16

    Join rules セクション、Transformations セクションでは何も設定しません。

    202505_EntraConnect_17

    202505_EntraConnect_18

    [Add] をクリックし、ルールが作成されていることを確認します。

    202505_EntraConnect_19

    インバウンドルールと同様に、グループ・連絡先オブジェクトに関しても同様のルールを作成します。

    項目
    Connected System Object Type group(グループ)
    contact(連絡先)
    Metaverse Object Type group(グループ)
    person(連絡先)

    202505_EntraConnect_20

    以上で、カスタム同期ルールの作成は完了です。

     

    5. クラウド同期を構成し同期を実行

    クラウド同期を構成し、同期対象オブジェクトを同期します。
    なお、Entra Connect 側でカスタム属性マッピングがある場合はクラウド同期でも同様に設定します。
    構成手順については私の前々回記事「Entra クラウド同期とは」 を参考にしてください。

    構成時の注意点はこちらです。

    • スコープフィルターでテスト OU を指定すること
    • Entra Connect 側で属性マッピングをカスタムしている場合はクラウド同期側でも同様に設定すること

    ※ 属性マッピングのカスタムについては、前回記事「Entra クラウド同期について詳しく見てみる」 で紹介しています。

    構成から数分後、プロビジョニングログにてテスト OU 内のオブジェクト情報が同期されていることが確認できます。
    各ログの詳細から下記項目が実行されたことを確認できます。

    • 各オブジェクト情報の更新
    • ユーザオブジェクトのパスワードハッシュ同期
    • グループオブジェクトの所属メンバー情報の更新

    202505_EntraConnect_21

     

    6. Entra Connect の同期スケジューラを再開

    同期スケジューラを再開し、カスタム同期ルールを反映させます。
    Entra Connect を実行しているサーバにて PowerShell を管理者権限で起動し、以下コマンドを実行します。

    # 同期スケジューラを再開
    Set-ADSyncScheduler -SyncCycleEnabled $true

    # 同期を実行
    Start-ADSyncSyncCycle

    カスタム同期ルールによってテスト OU 内のオブジェクト情報は Entra Connect では同期されず、クラウド同期によって同期されます。
    確認のために、テスト OU 内にユーザオブジェクト「cs_test」を作成してみます。

    202505_EntraConnect_22

    Entra Connect の同期を手動で実行します。

    Start-ADSyncSyncCycle

    Entra Connect 同期ログを確認してみましょう。
    Entra Connect インストール時に同梱される Synchronization Service Manager を起動します。

    202505_EntraConnect_23

    AD コネクタの Import フェーズにて、更新されたオブジェクト情報がインポートされています。

    202505_EntraConnect_24

    しかし、Entra コネクタの Export フェーズでは、更新されたオブジェクト情報はエクスポートされていません。

    202505_EntraConnect_25

    対して、クラウド同期でオンデマンドプロビジョニングを行います。

    202505_EntraConnect_26

    プロビジョニング結果では「cs_test」が作成されたことが確認できます。
    ※自動同期が先に行われていた場合は作成ではなく更新となります。

    202505_EntraConnect_27

    「cs_test」が作成されており、テスト OU の同期が Entra Connect からクラウド同期へ移行できていることが確認できます。202505_EntraConnect_28

     

    7. 本番用の同期構成へ変更

    Entra Connect からクラウド同期へ問題なく移行できることをテスト OU で確認したため、同期構成をテスト OU から本番 OU へ変更します。
    以下を行う必要があります。

    • Synchronization Rules Editor カスタム同期ルールの対象 OU を変更
    • クラウド同期スコープフィルターの対象 OU を変更
     
    Synchronization Rules Editor カスタム同期ルールの対象 OU を変更

    EC サーバにて Synchronization Rules Editor を管理者権限で起動し、作成したインバウンドルールを選択して [Edit] をクリックします。

    202505_EntraConnect_29

    Scoping filter にて、Value の値を本番 OU の 識別名(dn)に変更し保存します。

    202505_EntraConnect_30

    なお、同期対象 OU が複数存在する場合、[Add group] > [Add clause] をクリックし、別のグループで OU 条件を追加登録します。

    202505_EntraConnect_31

    3つのルールすべてについて同様に設定すれば完了です。
    ※フォレストやドメインが複数あり AD コネクタが複数存在する場合、コネクタごとに3つのルールを作成してください。

     

    クラウド同期スコープフィルターの対象 OU を変更

    クラウド同期構成のスコープフィルターにて、本番 OU へ変更します。

    202505_EntraConnect_32

    こちらも同期対象 OU が複数存在する場合は追加で登録します。
    ※ フォレストやドメインが複数ある場合、そのフォレストやドメインごとにクラウド同期を構成してください。

    202505_EntraConnect_33

     

    本番用の同期構成での動作確認

    すべての同期構成 が Entra Connect からクラウド同期に移行され、問題なく同期されていることを確認します。

    テスト OU の時と同様にログを確認したり、必要に応じて同期対象のオブジェクト情報を変更して正常性を確認してください。

     

    8. Entra Connect のアンインストール

    すべての同期構成をクラウド同期に移行できたら Entra Connect をアンインストールします。

    EC サーバへ接続し、[コントロールパネル] > [プログラムのアンインストール] をクリックします。

    202505_EntraConnect_34

    Microsoft Entra Connect Sync をクリックし、アンインストールを選択します。
    ※表示が旧名称(Azure AD Connect)になっている場合があります。

    202505_EntraConnect_35

    アンインストールのウィザードが開きますので、[削除] をクリックします。

    202505_EntraConnect_36

    削除が完了したら、[終了] をクリックします。

    202505_EntraConnect_37

    AD サーバにて、Entra Connect 用に作成されたユーザオブジェクトを削除します。

    202505_EntraConnect_38

    Entra 管理センターにて、Entra Connect 用のサービスアカウントを削除します。

    202505_EntraConnect_39

    以上で Entra Connect のアンインストール作業は完了です。

    まとめ

    本記事では、Entra Connect からクラウド同期への移行手順を紹介しました。
    同期要件がクラウド同期で満たせる場合は移行を考えてみてはいかがでしょうか。
    3記事にわたってクラウド移行について紹介しましたので、参考になれば幸いです。

    参考

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